etc. — ET CETERA

ここでは、ムルバリア語のなりたちやラテン語・現代ロマンス諸語・他ロマンス系人工言語との比較考察、設計・開発中のこぼれ話といった記事を掲載します。


ムルバリア語の名詞の形はどのようにできたか

ムルバリア語バージョン1の概要

2つの数 単数・複数 と3つの格 主格・対格・奪格 に応じた形を持つ。

ラテン語の与格の機能は前置詞 a + 対格 により表す。

ラテン語の属格の機能は前置詞 de + 奪格 により表す。

ラテン語の長短・高低の明確な区別はなくなり、現代ロマンス諸語において一般的にみられる強弱アクセント(後ろから2音節目が強い)になる。

文法的性は男性・女性に加えて中性を保存する。

ムルバリア語バージョン2の概要

バージョン2で主格形と対格形が合流し、形態上の格の区別は2種類にまで減った。 もはや形そのものが特定の意味を指さなくなっているため、主格&対格形は「直格」形、奪格形は「斜格」形と名前を変えた。 格そのもの(機能)はなくなっているわけではないが、現代西欧諸言語の言い方にならって主格項・対格項・与格項は「主語」「直接目的語」「間接目的語」と言うことが多くなった。 いよいよもって現代ロマンス語らしくなったが、それでもなお奪格(→斜格)は死守している。これはムルバリア語がムルバリア語であるために絶対捨ててはならないものである。

複数直格形は、現代ロマンス諸語において西ロマンス (fr, es) が対格形から取った膠着的・閉音節的な -as, -os, -es と東ロマンス (it, ro) が主格形から取った屈折的・開音節的な -e, -i の2つの選択肢があった。 作者は東ロマンスのスタイルが好みであるため、ムルバリア語バージョン2における複数直格形は東ロマンスのスタイルを基調としている。 ただしラテン語第三曲用に由来するものはラテン語の時点で複数主格形・複数対格形が西ロマンス風の -es になっているため、ムルバリア語でもここは -es になっている。 また「ムルバリア語アトランティカ方言」なるものを用意し、そこではすべての曲用で西ロマンスのスタイルを保存させた。

主格・対格の区別がなくなったこともあり、文法的性の中性は消失し、中性だったものは男性か女性に振り分けられた。 第二曲用 -um に由来するものは必ず男性である。 中性自体はなくなったが、その複数主格形・対格形に特徴的な -a は残っている。

ムルバリア語の名詞はどのようにできたか — ラテン語第一曲用から

ラテン語第一曲用[en]は単数主格が -a で必ず終わるもので、実際の語においても不規則形がほとんどなく、曲用の中では最も単純明快である。 文法的性としての典型的「女性」のイメージが強い。

Table 1. ラテン語第一曲用とムルバリア語バージョン1・2、現代ロマンス諸語の対応

1st decl.

la

mrb1

mrb2

fr

es

it

ro

sg.

ɴᴏᴍ

rosa

rosa

rosa

rose

rosa

rosa

roză

ᴠᴏᴄ

rosa

ᴀᴄᴄ

rosam

rosam

ᴅᴀᴛ

rosae

roze

ɢᴇɴ

rosae

rosae

rosae

ᴀʙʟ

rosā

pl.

ɴᴏᴍ

rosae

rosae

rosae (rosas)

roses

rosas

rose

rose

ᴠᴏᴄ

rosae

ᴀᴄᴄ

rosās

rosas

ᴅᴀᴛ

rosīs

ɢᴇɴ

rosārum

rosis

rosi

ᴀʙʟ

rosīs

※()内はムルバリア語アトランティカ方言

ムルバリア語バージョン1

単数主格形 -a はラテン語の単数主格形 -a から、 単数対格形 -am はラテン語の単数対格形 -am から取っている。

単数奪格形 -ae はラテン語の単数属格形 -ae から取っている。 これは、仮に奪格 -ā を採用すると主格と同じ -a になってしまうことと、 ae という綴りがラテン語の風情を感じられるからである。

複数主格形 -ae はラテン語の複数主格形 -ae から、 複数対格形 -as はラテン語の複数対格形 -ās から取っている。

複数奪格形 -is はラテン語の複数奪格形 -īs から取っている。 この形は第二曲用でも見られるものである。

ムルバリア語バージョン2

バージョン1の単数対格形 -am は音韻的に煩わしいこともあり、バージョン2の単数直格形はバージョン1の主格形 -a を採用した。

バージョン2の複数直格形は、標準ムルバリア語としては東ロマンス風の主格形 -ae を採用した。 アトランティカ方言では西ロマンス風の対格形 -as が採用されている。

単数斜格(バージョン1は奪格)形と複数直格(バージョン1は主格)形に見られる ae という二重母音は音韻上煩わしいため、 バージョン1からバージョン2にかけて発音を /ae/ から /e/ に単純化した。 しかし ae という綴りはラテン語の風情が感じられるため、綴り上は残すこととした。

ムルバリア語の名詞はどのようにできたか — ラテン語第二曲用(非中性)から

ラテン語第二曲用[en]は単数主格・単数対格の規則形が -us, -um となるものである。 -us は文法的性としての典型的「男性」のイメージが、 -um は典型的「中性」のイメージが強い。 第三曲用ほどではないが、第一曲用に比べると不規則形がちらほら見られる。

Table 2. ラテン語第二曲用(非中性)とムルバリア語バージョン1・2、現代ロマンス諸語の対応

2nd decl.

la

mrb1

mrb2

fr

es

it

ro

sg.

ɴᴏᴍ

pinus

pinus

pine

pin

pino

pino

pin

ᴠᴏᴄ

pine

ᴀᴄᴄ

pinum

pinum

ᴅᴀᴛ

pinō

ɢᴇɴ

pinī

pino

pino

ᴀʙʟ

pinō

pl.

ɴᴏᴍ

pinī

pini

pini (pinos)

pins

pinos

pini

pini

ᴠᴏᴄ

pinī

ᴀᴄᴄ

pinōs

pinos

ᴅᴀᴛ

pinīs

ɢᴇɴ

pinōrum

pinis

pini

ᴀʙʟ

pinīs

※()内はムルバリア語アトランティカ方言

ムルバリア語バージョン1

単数主格形 -us はラテン語の単数主格形 -us から、 単数対格形 -um はラテン語の単数対格形 -um から取っている。

単数奪格形 -o はラテン語の単数奪格形 -o から取っている。 これは、仮に属格 -ī を採用すると複数主格と同じ -i になってしまうからである。

複数主格形 -i はラテン語の複数主格形 -ī から、 複数対格形 -os はラテン語の複数対格形 -ōs から取っている。

複数奪格形 -is はラテン語の複数奪格形 -īs から取っている。 この形は第一曲用でも見られるものである。

ムルバリア語バージョン2

バージョン1の単数主格形 -us と対格形 -um はどちらも音韻的に煩わしいため、 バージョン2の単数直格形は思い切ってラテン語の呼格形 -e を採用した。 呼格自体、 -us, -um を簡略化した結果とも解釈でき、あながち変でもないと思っている。 フランス語では -e で終わるいくつかの例がある。 ( mundus (la) > monde (fr), fluvius (la) > fleuve (fr) ) ただしフランス語はラテン語第一曲用 -a も -e に落ち着くことが多く、フランス語で -e で終わるものがすべからく第二曲用由来ということではない。

バージョン2の複数直格形は、標準ムルバリア語としては東ロマンス風の主格形 -i を採用した。 アトランティカ方言では西ロマンス風の対格形 -os が採用されている。

ムルバリア語の名詞はどのようにできたか — ラテン語第二曲用(中性)から

Table 3. ラテン語第二曲用(中性)とムルバリア語バージョン1・2、現代ロマンス諸語の対応

2nd decl.

la

mrb1

mrb2

fr

es

it

ro

sg.

ɴᴏᴍ

vinum

vinum

vine

vin

vino

vino

vin

ᴠᴏᴄ

vinum

ᴀᴄᴄ

vinum

ᴅᴀᴛ

vinō

ɢᴇɴ

vinī

vino

vino

ᴀʙʟ

vinō

pl.

ɴᴏᴍ

vina

vina

vina

vins

vinos

vini

vinuri

ᴠᴏᴄ

vina

ᴀᴄᴄ

vina

ᴅᴀᴛ

vinīs

ɢᴇɴ

vinōrum

vinis

vini

ᴀʙʟ

vinīs

ムルバリア語バージョン1

ラテン語と同様で、第二曲用(非中性)をベースとして、主格形が対格形と同形 -um になることと、複数主格形・対格形が -a となることが特徴である。

ムルバリア語バージョン2

バージョン1の複数主格形・対格形に特徴的だった -a をバージョン2でも残している。 逆にいえば、ムルバリア語バージョン2で複数直格形が -a になっているものはバージョン1、ひいてはラテン語における中性の名残りなのである。 現代ロマンス諸語ではこの特徴はほとんど消失したが、ごく一部に痕跡が見られる。例えばイタリア語の uovo 「卵」は、複数形が uova である。 この語はラテン語の ōvum (複数主格形・対格形 ōva) に由来する。

ムルバリア語の名詞はどのようにできたか — ラテン語第三曲用(非中性)から

ラテン語第三曲用[en]は単数主格・単数対格の規則形が -is, -em となるものである。 第三曲用は単数主格形の不規則性が非常に高く、文法的性の男性/女性もはっきりしないため、雑然・混沌とした印象がある。

Table 4. ラテン語第三曲用(非中性)とムルバリア語バージョン1・2、現代ロマンス諸語の対応

la

mrb1

mrb2

fr

es

it

ro

sg.

pars ɴᴏᴍ

pars ɴᴏᴍ

pars ʀᴄᴛ

part

parte

parte

par ɴᴏᴍ-ᴀᴄᴄ

pars ᴠᴏᴄ

partem ᴀᴄᴄ

partem ᴀᴄᴄ

partī ᴅᴀᴛ

părți ɢᴇɴ-ᴅᴀᴛ

partis ɢᴇɴ

parte ᴀʙʟ

parte ᴏʙʟ

parte ᴀʙʟ

pl.

partēs ɴᴏᴍ

parti ɴᴏᴍ

partes ʀᴄᴛ

parts

partes

parti

părți ɴᴏᴍ-ᴀᴄᴄ

partēs ᴠᴏᴄ

partēs ᴀᴄᴄ

partes ᴀᴄᴄ

partibus ᴅᴀᴛ

părți ɢᴇɴ-ᴅᴀᴛ

partium ɢᴇɴ

partis ᴀʙʟ

parti ᴏʙʟ

partibus ᴀʙʟ

Table 5. ラテン語第三曲用(非中性)とムルバリア語バージョン1・2、現代ロマンス諸語の対応

3rd decl.

la

mrb1

mrb2

fr

es

it

ro

sg.

ɴᴏᴍ

pars

pars

pars

part

parte

parte

par

ᴠᴏᴄ

pars

ᴀᴄᴄ

partem

partem

ᴅᴀᴛ

partī

părți

ɢᴇɴ

partis

parte

parte

ᴀʙʟ

parte

pl.

ɴᴏᴍ

partēs

parti

partes

parts

partes

parti

părți

ᴠᴏᴄ

partēs

ᴀᴄᴄ

partēs

partes

ᴅᴀᴛ

partibus

ɢᴇɴ

partium

partis

parti

ᴀʙʟ

partibus

ムルバリア語バージョン1

単数主格形はラテン語の単数主格形をそのまま継承する。 単数対格形 -em はラテン語の単数対格形 -em から取っている。

単数奪格形 -e は第二曲用と同じくラテン語の単数奪格形 -e から取っている。

複数主格形 -i はラテン語には見られず、東ロマンスが第二曲用から一般化させた -i にならった。 複数対格形 -es はラテン語の複数対格形 -ēs から取っている。

複数奪格形 -is はラテン語には見られず、第一曲用、第二曲用にあわせて -īs とした。 あとづけではあるが、ラテン語の奪格形に見られる -ibus を短縮したものともいえる。

ムルバリア語バージョン2

単数主格形はラテン語の時点ですでに音韻的に洗練されて(丸められて)おり、対格形 -em は煩わしくあるので、当然主格形を採用した。

複数直格形は、バージョン1ではラテン語に反してでも現代東ロマンス風の -i を持ち込んだが、 バージョン2では方針を180度転換して -es を採用した。 これは、標準ムルバリア語という一つの言語のなかで、東ロマンススタイルを基調としながらも一部に西ロマンススタイルが混在することで、風味豊かになると考えたからである。

ムルバリア語の名詞はどのようにできたか — ラテン語第三曲用(中性)から

Table 6. ラテン語第三曲用(中性)とムルバリア語バージョン1・2、現代ロマンス諸語の対応

3rd decl.

la

mrb1

mrb2

fr

es

it

ro

sg.

ɴᴏᴍ

exāmen

examen

examen

examen

examen

esame

examen

ᴠᴏᴄ

exāmen

ᴀᴄᴄ

exāmen

ᴅᴀᴛ

exāmine

ɢᴇɴ

exāminis

examine

examine

ᴀʙʟ

exāmine

pl.

ɴᴏᴍ

exāmina

examinia

examina

examens

examenés

esami

examene

ᴠᴏᴄ

exāmina

ᴀᴄᴄ

exāmina

ᴅᴀᴛ

exāminibus

ɢᴇɴ

exāminum

examinis

examini

ᴀʙʟ

exāminibus

ムルバリア語バージョン1

ラテン語と同様で、第三曲用(非中性)をベースとして、主格形が対格形と同形になることと、複数主格形・対格形に …​a が見られることが特徴である。 ただしラテン語と異なる点があり、複数主格形・対格形は -a ではなく間に -i の入った -ia が規則形である。 これは、単純化・規則化のために形容詞に合わせた形である(ラテン語で、第三曲用(中性)の複数主格形・対格形は、名詞では -a 、形容詞では -ia が普通)。

ムルバリア語バージョン2

複数直格形は、バージョン1では単純化・規則化のために -ia としていたが、これは取りやめて、ラテン語と同様に名詞では -a とした。